大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7714号 判決 1963年3月30日

被告 三和銀行

事実

原告上田稔は請求の原因として次のとおり述べた。

原告は被告株式会社三和銀行京橋支店に対し、昭和二五年四月二八日振出人株式会社協和銀行浅草橋支店同日振出金額五〇万円振出地東京都台東区なる自己宛小切手四通をもつて、村上晋名義で金額六〇万円村上アキことワカ名義で金額七〇万円村上あつ子名義で金額七〇万円の普通預金の預入をなし、被告銀行同支店発行の口座番号五一七村上普名義預入金額六〇万円、口座番号七〇一村上あつ子名義預入金額七〇万円、口座番号七〇四村上アヤ名義預入金額七〇万円の普通預金通帳各一通の交付を受けたものである。ところが被告は右各通帳は改ざんされたものである旨争うので、右各預金債権の確認を求めると同時に、右預金合計二〇〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和三一年一〇月一八日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める。

被告株式会社三和銀行は答弁として、原告がその主張の日被告銀行京橋支店に対しその主張する名義で普通預金の預入をした事実および各口座番号預入名義人は原告主張のとおり三通のの預金通帳を発行した事実は認めるが、預入金額および原告主張の小切手で預入れた事実は否認する。原告は東京プラスチツク工業株式会社振出東海銀行東京支店宛金額三〇万円の小切手一通により右各口座に一〇万円づつを預入れたもので、原告主張の小切手により合計二〇〇万円を預入れたものでない。もつとも同日被告は原告主張の小切手を受取つたことはあるが、右は渡辺光子なる者が、訴外渡辺剛の当座預金口座に五〇万円、訴外協和美術印刷株式会社の口座に一五〇万円を預入れたものであり、原告と何の関係もないものである。しかして原告主張の普通預金通帳はそれぞれ一〇万円の金額を原告主張の金額に改ざんしたもので、原告の請求は三通につき各一〇万円を超過する部分については理由がない、と述べた。

理由

原告主張の日時原告が村上晋、村上あつ子、村上あやの名義で被告銀行京橋支店に普通預金の預入をなし、被告が右各名義の普通預金通帳を発行したことは当事者間に争がない。

そこで右預入が原告主張の四通の小切手金額合計二〇〇万円でなされたものか、被告主張の三〇万円の小切手によるものかについて判断する。

(証拠)によると原告主張のとおりの金額五〇万円振出日昭和二五年四月二八日振出地支払地共に東京都台東区、株式会社協和銀行浅草橋支店振出の自己宛小切手四通の各裏面には、いずれも鎌倉市極楽寺五八九村上なる記載と村上の印影があり、原告主張の三名の預入名義人のいずれかの名前で原告が受取証を作成したものと推定され、したがつて右各小切手は原告が所持した形跡が認められ、被告が印影の成立を認めるので反証のない限り全部真正に成立したものと推定し得る甲第二号証ないし第四号証の各一ないし六によれば被告銀行京橋支店の作成交付した預金者村上あつ子、村上晋、村上アヤなる普通預金通帳には、村上晋の分は金額六〇万円その他の二通は金額七〇万円と記載されていることが一応認められ、また原告本人尋問のなかには原告の主張にそつた部分が認められる。

しかしながら一方鑑定の結果によれば、甲第二号証ないし第四号証の各五の記載はいずれも異筆のインクで数字に加筆された結果甲第二号証の五は七〇万円甲第三号証の五は六〇万円第四号証の五は七〇万円と記載されていると認められること、およびこの事実に(証拠)を総合すると、原告はかねて知り合いの宮尾利雄を通じて、もと被告銀行京橋支店の支店長であつた野口勇造から、被告銀行京橋支店に同人の紹介の下に預金をすると銀行の同人に対する融資の枠が広がる利益があるから、金二百万円の預金の預入をして貰いたい旨依頼されて承諾し、昭和二五年四月二八日頃右京橋支店に村上晋名義で六〇万円村上あや、村上あつ子名義で各七〇万円の普通預金の預入をするべく、野口に依頼して原告主張の四通の小切手を同人に交付したところ、野口の意を受けた渡辺光子が、同日被告銀行京橋支店において東京プラツチツク工業株式会社振出金額三〇万円なる被告主張の小切手をもつて、右村上晋、村上あや、村上あつ子名義で各一〇万円の合計三〇万円の預入をなし、被告銀行京橋支店作成の右各一〇万円の普通の金通帳三通の交付を受け、光子の夫の渡辺剛と共に右通帳の各一〇万円の金額欄を村上晋の分については六〇万円、他の二通については各七〇万円と改ざんし、この改ざんしたもの(甲第二号証ないし第四号証の各一ないし六)を同日被告銀行京橋支店に預つてもらい、右野口は原告他一名と同道して同支店に赴き、右渡辺光子が預けておいた普通預金通帳(甲第二号証ないし第四号証の一ないし六)の返還を求めて、あたかもその時預金の預入をして通帳の交付を受けたもののように右銀行から通帳を受領して(但し預金窓口からではない)これを原告に交付したこと、同日さらにその後、原告より交付された小切手四通で、渡辺光子は同支店の渡辺剛の預金口座に五〇万円、野口が支配する協和美術印刷株式会社の口座に一五〇万円を各振込んだものであること、野口は原告の二〇〇万円の預入についての礼金としていわゆる裏利子と推定される一八万円を宮尾に交付し、宮尾はこのころ約四万円を原告に礼金として支払つたこと、の各事実が認められる。

以上認定の事実に照すと前掲原告の主張にそうと思われる証拠のうち、原告本人尋問の結果は信用できず、また甲第一号証、第二号証ないし第四号証の各一ないし六から認められる各事実をもつてしても、なお原告主張どおりの預入がなされたと認めるにはいたらないばかりか、外に証拠のないかぎり右認定のとおりむしろ村上晋、村上あや、村上あつ子名義の預金は各金一〇万円と認める他はない。もつとも被告銀行の使用人が右渡辺光子の所為に加担したのではないかとの疑が持たれないわけではないが、いまだ原告主張どおりの預金が成立したものと確認するに十分な証拠はない。すると、被告が原告に対し預金債権の払戻を求める請求は、金三〇万円とこれに対する訴状送達の翌日であることの明白な昭和三一年一〇月一八日から支払ずみに至るまで民法所定の利率と同率の年五分の割合による損害金の支払を求める範囲で理由があり、その余は理由がなく、また右債権について原告は合計二〇〇万円である旨主張し、被告はもともとこれを三〇万円である旨主張したため争の生じたものであるから、預金債権の認められる三〇万円については原告に確認の利益がなくその余の確認を求める請求は理由がない。

そこで原告の請求は金三〇万円とこれに対する昭和三一年一〇月一八日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員の支払を求める範囲で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条によりこれを五分し、その四を原告の負担、その余を被告の負担とし、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例